菊を愛でる日 ― 重陽の節句と和装に宿る美意識
- vitviby

- 9月9日
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重陽の節句とは
9月9日は「重陽(ちょうよう)の節句」。五節句のひとつで、奇数の中でも最大の「九」が重なることから、特別にめでたい日とされてきました。
古代中国の風習が日本に伝わり、宮中では「菊の酒」をいただき長寿を願う行事として定着し、やがて民間へも広がりました。

着せ綿(きせわた)の習わし
この節句にちなむ風習のひとつに「着せ綿」があります。
前日の夜に菊の花に真綿をかぶせておき、朝露や花の香りを移した綿で体を拭うことで、無病息災や長寿を祈るというものです。
平安時代には宮中の行事として行われ、その優雅な所作が伝えられてきました。
数年前、親子で参加させていただいたお茶会では、この「着せ綿」を体験させていただきました。菊の花に綿をそっと載せる仕草を、娘と一緒に楽しんだ時間は、今も心に残っています。
いただいた和菓子も、ふんわりとした白綿をのせた菊を模したもの。まさに季節の風習を五感で味わうひとときでした。

菊の花が持つ意味
菊は日本の国花のひとつであり、古くから高貴な花とされてきました。
花言葉は「高潔」「永遠の愛」。また「不老長寿」を象徴する縁起花としても親しまれています。
特に秋に菊文様を纏うことは「豊かな実り」「長寿」を願う意味があり、着物や帯、小物に重宝されてきました。
日本の装いにおいて、菊は単なる装飾を超えて、暮らしや祈りと深く結びついた存在なのです。
近年では、神社や寺院で見られる花手水(はなちょうず)にも菊があしらわれ、訪れる人々の目を楽しませています。古来より続く祈りの象徴である菊は、現代においても暮らしの中で季節を彩り、人々の心を和ませてくれる存在です。

明治期の本鼈甲 ― 花嫁簪に込められた美
私のコレクションの中でも、特に大切にしているのが、明治期(1880〜1900年代)の本鼈甲による花嫁簪です。
数えきれないほどのべっ甲簪を見てきましたが、この白鼈甲の簪ほど気品と美しさを備えたものには、なかなか出逢えません。
白鼈甲はべっ甲の中でも特に希少とされ、透きとおるような質感と柔らかな光沢が特徴です。
その素材に、職人が一枚一枚、丹念に彫り上げた立体的な「菊」の細工が施され、気高さと優美さを併せ持っています。
当時、花嫁の簪一揃えは「蔵ひとつに匹敵する」とまで言われるほど贅沢な品であり、全てが揃った状態で現存することは稀です。
天然素材ゆえに虫食いや劣化も多い中、この簪は100年以上の時を経てもなお、見事な姿を保っています。
その存在はまさに奇跡のようであり、伝統の美を手にできる喜びを感じずにはいられません。


菊を纏う、季節を愉しむ心
日本の装いは、色や文様の掛け合わせによって四季や祈りを映し出し、自然とともにある心を表現してきました。
重陽の節句にちなみ、菊を日々の暮らしや装いに取り入れることは、古の人々が大切にしてきた願いや美意識を、現代に生かすことにもつながります。
秋の訪れを感じるこの季節、皆さまも菊の花や文様を身近に取り入れ、節句ならではの風雅を愉しんでみてはいかがでしょうか。




